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輝かしく同時に陰影のある・・・

23 Aug 2020, night

 

感動的なラスキン。“輝かしく、同時に陰影のある”(これは、小菅優のショパンの練習曲集から受けた印象でもある)。


「…にもかかわらず私たちは、その言葉を一つの美しい歌として読み、その峻厳な警告に対しては耳を塞ぐ。」(失われたフェニキアの都市テュロスについて)


「…ラグーナの蜃気楼に映る(ヴェネツィアの)かすかな姿を見つめる私たちに、どちらが「都市」でどちらが「影」なのかという疑いが湧くのも無理からぬ…」(ラスキンの眼の前にあるヴェネツィアについて)

この姿が永遠に去ってしまわないうちに、私は心してその細部の線をたどろうと思う。そして「ヴェネツィアの石」に弔鐘のごとく打ち寄せる波が浸食する一波ごとに口にする警告の言葉を、できるかぎり記録しておこうと思う。」(ジョン・ラスキン『ヴェネツィアの石』井上義夫訳 、pp.9-10)
これがラスキンという人の基本の路線、行き方(それは生き方であるかもしれない)なのだろう。

ヴェネツィア、未知の都市。ただ、ラスキンの文体の灯りによってだけ照らされる小道のようなもの。


結局読書とは、imaginaryな旅、もっといえば、無意識が縦横に駆けめぐる旅以外のなにものでもない。情報の整理と把握ではない。おそらく音楽的。